受験世界史に必要な前提知識と考え方はなにか
近年は大学受験で世界史を選択する受験生も多い。そこで、受験世界史にとって必要な考え方や前提知識を考察することにする。
前提知識:地理
第一に、世界史は世界(地球上)で発生した歴史についての科目である。そうである以上、地理は避けられない。ただ、中の人は地理といっても一括りに出来るものではないと考えている。以下二種類に大別して考える。
一般的な地理知識は世界史理解の最前提である
まず、「ヨーロッパ」「バルカン半島」「長江」などの地域や大洋、大河川などについての地理知識を考える。これらは世界史全体を理解していくうえで不可欠な知識である。バルカン半島であれば古典古代から付き合うことになり、オスマン帝国を経てユーゴスラビア崩壊までの長丁場だ。長江も良渚や河姆渡の遺跡から、中国分割、日中戦争まで世話になる。
つまるところこれらの地理知識は一般的・普遍的な知識であり、その都度覚えていけばよいというものではなく、事前に一般教養として摂取する必要がある、世界史において文字通りの基礎・大前提である。
特殊的な地理知識はその都度覚えればよい
「アムリトサル」「プルシャプラ」「景徳鎮」などの応用が効かないが、しかし必要な知識はその都度覚えればよい。つまり、アムリトサルはイギリスの欧州大戦後の反動的インド統治の一貫、プルシャプラは1・2世紀の東西交易の重要拠点だったりバクトリア住民のガンダーラ移住の過程だったり、景徳鎮は唐宋変革の経済発展の関連で覚えればよい。
ただ、地名を単に暗記するのみではなくて、しっかりと地図上に記憶する必要がある。それは私立大学の入試問題に時折問われるからでもあり、何よりそのほうが記憶に有益だからである。
考え方:理解を伴う暗記
世界史は畢竟暗記教科であるが、丸暗記と理解を伴った暗記とでは応用のしやすさと定着度で大いに差がある。では理解を伴った暗記とは?以下はビスマルク外交を例として考える。
理解を伴った暗記例
1871年にドイツ帝国が成立し、アルザス・ロレーヌをフランスから割譲するも、以降フランスの対独感情は憎悪一色となる。そのためビスマルクの外交はフランスの孤立化と、フランスとロシアが結託してドイツが二正面を抱えないようにする二点が軸となった。
まずドイツは1873年にオーストリア・ロシアと三帝同盟を締結する。理由はオーストリアは「未回収のイタリア」問題でイタリアと対立関係にあり、ロシアは英露対立の都合上同盟国が必要だったから。しかし三帝同盟は1878年に解消する。露土戦争のサン・ステファノ条約がロシアの地中海進出を可能にするものであった点にイギリスがインド交易路の観点から激怒し、英露間の仲買人となったビスマルクがロシアの南下をベルリン会議で挫いたからだ。そのためロシアは東方で南下を試みるも、イリ事件の戦略的失敗、第二次アフガン戦争によるイギリスの進出で挫折する。よって、ロシアは三帝同盟に復帰する。しかし、バルカンを巡り対立するオーストリアとブルガリア王選出問題で揉めてまたも三帝同盟は解体する。墺露対立に業を煮やしたドイツはそのため1887年、ロシアと単独で再保証条約を結んだ。
西欧については、1878年ベルリン会議でイタリア代表抜きで決定されたフランスのチュニジア占領を実際に1881年にフランスが敢行すると、知らされていなかったイタリアは憤激した。チュニジアはローマ因縁の都市カルタゴの地域であり、その距離の近さゆえにイタリア移民が多かったからである。イタリアはフランスに敵愾心を抱き、未回収のイタリアを棚上げして三国同盟を締結した。ビスマルクはドイツが海軍力を増強して植民地建設に乗り出すとイギリスとの関係を損ね、英仏間の接近が起こることを危惧したために積極的対外政策は行わず、したがってイギリスとの関係も比較的良好であった。これらにより、フランスの孤立化とロシアの繋ぎ止めにビスマルクは成功した。
理解を伴った暗記とは因果を掴んだ通時・共時的理解である
以上は中の人がビスマルク外交を覚えるときに用いた理解の道筋である。
世界史は過去から現在、未来へと流れてゆく通時的なものであるから、理解とは因果関係の把握であり、通時的なものである。上掲の例には因果関係を示す字句に下線を引いておいたが、個々の事象を因果関係で捉えていることが明瞭に分かると思う。
しかし歴史は地球儀の上で展開される地理的な事象でもある。だから、理解とは地政学的ないし共時的な理解でもある。前述の例には共時的(地政学的)理解を示す字句は赤く塗っておいた。
まとめると、世界史の理解とは通時的かつ共時的に個々の歴史的なことがらを捉えることである。「三帝同盟」「三国同盟」「ベルリン会議」などの個々の語句を覚えることは一見容易に思える。しかし、世界史で覚えるべき事項は幾千とある。論述を書く際に単語を知っているだけではなんの役にも立たない。マーク式問題においても判断基準は結局因果関係や地理的事項である。
まとめ:一般的な地理知識を前提に、通時・共時的に事象を理解する
以上の通り、世界史の勉強とはまず一般的な地理知識の土台の上に、銘々の歴史的事象を通時的な因果関係と共時的な地政学的思考とで紐付けて捉え、理解することである。世界史の参考書には、実はこの点に留意していないものが多い。だから、地図帳で一般的地理知識を頭に入れて、予備校のテキストや資料集など詳細な情報が掲載されたもので通時的・共時的に事象を捉えて、教科書を解読するのが中の人的には最も合理的な勉強のやり方である。(教科書解読がなぜ必要かというと、入試問題は教科書記述をベースに出題されるからである)
以上